楽しいBADUIの世界

1日1 BADUI(ユーザインタフェースの失敗学)

署名欄: 間違えることが許されない状況であなたは間違えない自信はありますか?

   

間違えが許されないような状況なのにも関わらず、なかなか困ったユーザインタフェースというのはあるものです。

下の図は、ずっと昔に知り合いの結婚式(人前式)に参加した時に、知人(新郎立会人)が間違えそうになったのを再現したもの。さて、こちらのフォームであなたが新郎側立会人として署名しようと思った時、どこに記入しようとするでしょうか?(人前式では、新郎新婦が署名した後、それぞれの立会人が証人として署名します)

どこにサインしますか?

どこにサインしますか?

答えは、「新郎側立会人の署名」というラベルの上にある線のさらに上の場所です。私なら、まず間違いなく新郎側立会人の署名というラベルの下に書いてしまいそうです。立会人署名のタイミングでは、新郎や新婦の署名がそれぞれの線の上に書かれているので、間違える可能性は低いかもしれませんが、結婚式で緊張していた状況ということもあり、その知人は署名欄を間違えそうになり、こちらですよとスタッフの人に指示されていました。

この署名欄、線と線で囲まれた領域があり、そこにラベルが付けられていてグループ化がなされているので、どうしてもそのラベルの下に書こうとしてしまいがちです。結婚式という晴れの場で間違えが許されない状況なので、出来るだけ自然に記入できるようにして欲しいものです。

この手の署名欄や記入欄は、アメリカでよく見かける気がします。実際、アメリカの大学に短期滞在していた時に書類記入を依頼され、署名の場所や住所を書く場所を書き間違えたことが何度かあります。

ちなみにこの署名欄のわかりにくさのために、とてもとても重要な場面で間違えて記入されたというケースもあります。それが、大日本帝国がポツダム宣言を受け入れるために調印した降伏文書の中にあります(以下、画像は外務省のサイトより)。

降伏文書の署名

降伏文書の署名

上から順に見ていくと、途中におかしな所があります。その部分を拡大したのが下記の図。

部分拡大

部分拡大

本来、Dominion of Canada Representativeの上に、カナダの代表がサインしなければならないのに、その下にサインしてしまっています。その結果、それ以降の3カ国の代表もそれぞれ1つずつ下にサインしてしまっています。サインを書き直すことが出来なかったのか、後付けで取り消し線と手書きで「ここはこの国」と書きなおされています。

以下、この時の状況をWikipediaより(ミズーリ(戦艦):降伏文書調印式

なお、9:25の調印式終了とともにアメリカ海軍機の編隊と陸軍航空軍のB-29爆撃機が祝賀飛行を行ったが、そのとき甲板ではカナダ代表が署名する欄を間違えたことによる4ヶ国代表の署名欄にずれが見つかり、正式文書として通用しないとして降伏文書の訂正がなされていた。
具体的には、連合国用と日本用の2通の文書のうち、日本用文書にカナダ代表のエル・コスグレーブ大佐が署名する際、自国の署名欄ではなく1段飛ばしたフランス代表団の欄に署名した。しかし、次の代表であるフランスのフィリップ・ルクレール大将はこれに気づかずオランダ代表の欄に署名、続くオランダのコンラート・ヘルフリッヒ大将は間違いには気づいたものの、マッカーサー元帥の指示に従い渋々ニュージーランド代表の欄に署名した。最後の署名となるニュージーランドのレナード・イシット少将もアメリカ側の指示に従い欄外に署名することとなり、結果的にカナダ代表の欄が空欄となった。
その後、マッカーサー元帥の調印式終了宣言が行われ、各国代表は祝賀会の為に船室に移動したが、オランダ代表のヘルフリッヒ大将はその場に残り、日本側代表団の岡崎勝男に署名の間違いを指摘した。岡崎が困惑する中、マッカーサー元帥の参謀長リチャード・サザーランド中将は日本側に降伏文書をこのまま受け入れるよう説得したが、「不備な文書では枢密院の条約審議を通らない」と重光がこれを拒否したため、岡崎はサザーランド中将に各国代表の署名し直しを求めた。しかし、各国代表はすでに祝賀会の最中だとしてこれを拒否。結局、マッカーサー元帥の代理としてサザーランド中将が間違った4カ国の署名欄を訂正することとなった。日本側代表団はこれを受け入れ、9:30に退艦した。

ちなみに、このときに重光葵外務大臣もどこに署名したら良いか分からず悩んでいたのだとか。きっと、上に記入するか、下に記入するかで悩んでいたんでしょうね…。

人はただでさえ間違う生き物です。それが、緊張状態でストレスが増加するとそれにあわせてミスも増加しがちです。ですので、こういう重要な場面では間違えが起こらないよう、わかりやすい記入欄にして欲しいものです。

BADUIを集めて整理した「失敗から学ぶユーザインタフェース」が発売されました

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